大阪地方裁判所 平成10年(ワ)12753号 判決 1999年8月27日
主文
一 被告は、原告に対し、金一七八九万一五七九円及びこれに対する平成八年九月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを一〇分し、その二を原告の負担とし、その八を被告の負担とする。
四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告は、原告に対し、金二四二六万二九一三円及びこれに対する平成八年九月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 訴訟の対象
民法七〇九条
二 争いのない事実及び証拠上明らかに認められる事実
(一) 交通事故の発生(甲一)
<1> 平成八年九月二四日(火曜日)午後三時三〇分ころ(晴れ)
<2> 大阪府寝屋川市仁和寺本町四丁目二〇番三八号先路上
<3> 被告は、普通貨物自動車(大阪四七ひ四七四)(以下、被告車両という。)を運転中
<4> 原告(昭和五一年四月一二日生まれ、当時二〇歳)は普通自動二輪車(一大阪は三一〇三)(以下、原告車両という。)を運転中
<5> 詳細は争いがあるが、先行していた被告車両が左に進路を変更したところ、後方から直進してきた原告車両と衝突した。
(二) 責任(弁論の全趣旨)
被告は、後方の安全を十分に確認しないで左に進路を変更したため、後方から直進してきた原告車両と衝突した過失がある。したがって、民法七〇九条に基づき、損害賠償義務を負う。
(三) 傷害(争いがない。)
原告は、本件事故により、左大腿骨骨幹部開放骨折、左示指不全挫断、左大腿部皮膚欠損、恥骨結合離開などの傷害を負った。
(四) 治療(甲三)
原告は、治療のため、次のとおり入通院した。
<1> 上山病院に、平成八年九月二四日から同年一二月一五日まで、平成九年二月二四日から同年三月四日まで、同年一二月一五日から同月二四日まで、合計一〇二日入院した。
<2> 同病院に、平成八年一二月一〇日から平成九年二月二三日まで、同年三月五日から同年一二月一四日まで、同月二五日から平成一〇年七月一四日まで(実日数一五〇日)通院した。
(五) 後遺障害(甲五)
原告は、平成一〇年七月一四日に症状固定したが、左手指の用廃(後遺障害別等級表一一級九号)、左下肢の短縮(一三級九号)の後遺障害(併合一〇級)を残した。
三 原告の主張
原告主張の損害は、別紙一のとおりである。
四 争点と被告の主張
(一) 争点
過失相殺
(二) 被告の主張
被告車両が車道左側の敷地に進入するため、左方向の方向指示器を点滅させ、減速して左に寄ったときに、原告車両が後方から路側帯を高速で走行して被告車両と衝突し、転倒した。したがって、原告の過失は六割を越える。
第三過失相殺に対する判断
一 証拠(甲二、八、九、乙一、原告と被告の供述)によれば、次の事実を認めることができる。
(一) 本件事故は、直線の南北道路で発生した。
南北道路は、最高速度が時速五〇キロメートルに規制され、市街地で交通量は普通である。前後の見通しはよい。
南北道路の北行き車線は、三車線の道路であるが、第一車線の幅員は一・五メートルしかなく、第二車線と第三車線の幅員はそれぞれ三メートルである。南北道路の北行き車線の西側には、幅員二・四メートルの歩道がある。さらにその西側には、商店、事務所などがある。
被告車両の損傷状況は、左前ドア擦過などである。原告車両の損傷状況は、前輪曲損などである。
本件事故現場には、第一車線の中央付近に、衝突地点の約一八メートル手前から、五・七メートルと三・一メートルの原告車両のスリップ痕が残っていた。
(二) 被告は、次のとおり供述している。
被告は、南北道路の北行き車線の第二車線を走行していた。走行中、目的地をすぎてしまったことに気づき、道路の左側(西側)にある敷地に進入してUターンしようと思い、減速して、左折の合図をして、ハンドルを左に切った。このとき、原告車両は、二〇ないし三〇メートル後方にいた。原告車両の速度はわからなかった。約一八メートル進み、被告車両が第二車線と第一車線の境界付近に進んだとき、左後方五メートルの第一車線上にいる原告車両を見つけ、危険を感じ、ブレーキをかけたが、約一メートル進み、第二車線と第一車線の境界付近で、被告車両の左側面と原告車両が衝突した。被告車両は、約一メートル進んで停止し、原告車両は、衝突地点から約二三メートル前方に転倒した。原告は、衝突地点の付近の歩道に転倒した。
原告車両は時速約六〇キロメートルのスピードを出していたと思う。
(三) 原告は、次のとおり供述している。
原告は、南北道路の北行き車線の第一車線を走行していた。被告車両の左後方二メートルの付近を走行していた。速度は、時速約三〇キロメートルであった。ところが、被告車両が、合図をしないで、突然左に寄ってきたので、被告車両の左側面に衝突した。ただし、衝突する直前には、左折の合図を見た。
二 これらの事実によれば、原告車両と被告車両の位置関係、左折の合図の有無、衝突の態様など、被告の供述と原告の供述は必ずしも一致するわけではないが、それぞれの供述を前提としても、次のとおり認めることができる。
まず、被告の供述を前提とすると、被告は、減速し左折の合図をしてハンドルを切ったときに、約二〇メートル左後方を走行している原告車両に気づいている。そうであれば、被告車両が原告車両の進路前方に進入し、かつ、原告車両が被告車両に追いつくことになるから、被告は、原告車両の動静に十分注意すべきであった。ところが、第一車線に入り衝突する直前まで、原告車両を見ていない。したがって、被告は、後方の安全を確認しなかった過失がある。ただし、減速し左折の合図をしたときに原告車両を見たとの供述については、実況見分調書には記載がなく、実際に見たかどうかは疑問である。ほかに、被告の供述を前提としても、減速及び左折の合図をしてすぐにハンドルを切っていることが窺われ、やはり、事前の合図が十分ではなく、後方の安全確認が十分でなかったといわざるを得ない。なお、被告は原告が時速約六〇キロメートルのスピードを出していたと供述するが、その根拠があるわけではない。確かに、スリップ痕や原告車両の転倒位置を考えると、原告車両は低速ではなかったであろうが、制限速度を越えていたとまでは認められない。
これに対し、原告は、被告車両の約二メートル左後方を走行していたら、被告車両が突然左に寄ってきた旨の供述をする。仮に、そのとおりであったとしても、後続車両は十分に車間距離をあけて走行すべきであるから、原告は車間距離を開けず先行車両の動静に十分に注意をしなかった過失がある。ただし、原告車両のスリップ痕が衝突地点の約一八メートル手前から合計一〇メートル近く残っていることを考えると、正確なところはわからないとしても、ある程度、被告車両と原告車両は離れていたと考えるのが自然である。したがって、原告の前記供述は必ずしも採用しがたい。しかし、そうであっても、原告は先行していた被告車両の動静に十分に注意をすべきであったということができる。
これらの被告と原告の過失を比べると、後方の安全を確認してから進路を変更すべきであった被告の過失が大きいことは明らかであり、その過失割合は、八対二とすることが相当である。
第四損害に対する判断
証拠(後掲の原告提出の証拠)によれば、原告の損害は、別紙二のとおり認められる。
なお、物損については、本体価格に限って認めた。
(裁判官 斎藤清文)
10―12753 別紙1 原告主張の損害
1 治療費(甲4) 104万3380円
2 入院雑費(1300円×102日) 13万2600円
3 通院交通費(440円×150日)(甲6) 6万6000円
4 逸失利益 1922万4994円
(1) 基礎収入は、賃金センサス大卒 319万6000円
(2) 労働能力喪失率27パーセント
(3) 期間(23.231-0.952=22.279)
5 入通院慰謝料 216万0000円
6 後遺障害慰謝料 480万0000円
7 物損(甲7) 44万0220円
小計 2786万7194円
既払金(自賠責保険金) 581万0000円
既払金控除後 2205万7194円
8 弁護士費用 220万5719円
残金 2426万2913円
10-12753 別紙2 裁判所認定の損害
1 治療費 104万3380円
2 入院雑費 13万2600円
3 通院交通費 6万6000円
4 逸失利益 1922万4994円
(1) 基礎収入は、賃金センサス 319万6000円
(2) 労働能力喪失率27パーセント
(3) 期間(23.231-0.952)
5 入通院慰謝料 210万0000円
6 後遺障害慰謝料 480万0000円
7 物損 26万0000円
合計 2762万6974円
過失相殺後(被告8割) 2210万1579円
既払金(自賠責保険金) 581万0000円
既払金控除後 1629万1579円
8 弁護士費用 160万0000円
残金 1789万1579円